【温室効果ガスの算定・報告】世界158の金融機関が遵守。金融機関向けGHG算定・報告の世界基準とは
【温室効果ガスの算定・報告】世界158の金融機関が遵守。金融機関向けGHG算定・報告の世界基準とは
2021-09-28
加藤 章太朗
PCAF
炭素会計
カーボンアカウンティング
ESG経営
ESG
GHG算定・報告の世界基準

金融機関は、事業活動によって排出した温室効果ガス(GHG)の算定や報告を、どのように行えば良いでしょうか。

実は、金融機関は自社が直接的に排出したGHGを算定するだけでは不十分と、世界的な基準によって定義されています。自社が直接的に排出したGHGに加え、投資や融資によって生まれるGHGの排出量も算定しなければならないのです。現在、その国際基準は、2019年9月にグローバル規模で立ち上がったPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)によって整備されています。

今回は、金融機関が理解しておくべきPCAFの「GHG算定・報告の世界基準」について詳しく解説します。

<目次>

・PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)とは

・なぜ金融機関は投資・融資によるGHG排出量を算定・報告するのか

・金融機関が「GHG算定・報告の世界基準」を順守する意義

・金融機関によるGHG排出量の算定方法

・金融機関によるGHG排出量の報告方法


<関連記事>

【温室効果ガスの算定・報告】全企業がまず抑えるべき「GHGプロトコル企業算定・報告基準」とは

PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)とは

PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)とは、2019年に世界的に発足したパートナーシップで、金融機関が融資・投資によって排出した温室効果ガス(GHG)を一貫して算定・開示できるようにすることを目的としています。モルガン・スタンレー、バンクオブアメリカなど世界で158の金融機関が参加しており(2021年9月時点)、融資・投資によるGHG排出量を算定し開示することを約束しています。

参加金融機関の中から、以下の16のグローバルコアチームがボランティアでコアチームを結成し、「GHG算定・報告の世界基準」の策定と執筆を行っています。

<PCAFグローバルコアチーム>

・バンコピチンチャ(エクアドル)

・ABNアムロ銀行(オランダ)

・ファーストランド銀行(南アフリカ)

・ビジョンバンコ(パラグアイ)

・プロドゥバンコ(エクアドル)

・ロベコ(オランダ)

・アマルガメーテッド銀行(アメリカ)

・FMO(オランダ)

・アクセス銀行(ナイジェリア)

・ランズバンキ銀行(アイスランド)

・トリオドス銀行(オランダ)

・KCB銀行(ベルギー)

・クレディ・コーペラティフ(フランス)

・モルガン・スタンレー(アメリカ)

・ボストン・コモン・アセット・マネジメント(アメリカ)

・バンク・オブ・アメリカ(アメリカ)

PCAFグローバルコアチーム
PCAFのコーポレートサイトより

グローバルコアチームは、GHG算定・報告に関する基準を金融業界内で調和させるという究極の目的のために動いています。

2021年7月にみずほフィナンシャルグループが、日本の金融機関として初めてPCAFに加盟しました。

なぜ金融機関は投資・融資によるGHG排出量を算定・報告するのか

現在、様々な気候変動を回避するための世界基準がありますが、PCAFが作成している「GHG算定・報告の世界基準」は、金融機関に特化したものです。

そして、「GHG算定・報告の世界基準」のポイントは、投資・融資によって発生するGHG排出量を算定し報告するという点です。これはつまり、投資や融資をしたプロジェクトで発生するGHG排出量を算定・報告するということになります。

なぜ、自社の直接的なGHG排出量とは言えない投資や融資したプロジェクトで発生するGHGも算定・報告しなければならないのでしょうか?

GHG排出量の算定・報告の世界的な基準に「GHGプロトコル」という基準があります。

PCAFが作成している「GHG算定・報告の世界基準」は、金融機関のGHG排出量の算定・報告に特化したものですが、GHGプロトコルはそれより広範な基準と考えると良いかと思います。GHGプロトコルのバリューチェーン会計・報告基準では、GHG排出量を算定する上で以下のように3つのスコープを設定しています。

スコープ1:直接排出するGHG

スコープ2:エネルギー利用に伴い間接的に排出するGHG

スコープ3:その他、間接的に排出するGHG

GHGプロトコルのバリューチェーン算定・報告基準
Corporate Value Chain(Scope 3) Accountingand Reporting Standardより抜粋し作成

スコープ3のGHG排出を算定・報告することで、企業のバリューチェーン全体のGHG排出がカバーされます。このスコープ3まで追わなければ、国際的な目標となっている「2050年までのGHG排出量実質ゼロ」は困難です。例えば、スコープ3まで追わなくても良いならば、企業がGHGを大量に排出しているサプライヤーを選び続け、そのサプライヤーはGHGを排出し続けるかもしれません。一方、企業がスコープ3までのGHG排出量を算定し報告することが当たり前になれば、企業は地球環境に配慮したサプライヤーの選定をする可能性が高いのです。

実例として、アップル社が2020年7月に「2030年までにサプライチェーン全体のカーボンニュートラルを実現する」と発表しました。サプライチェーンとバリューチェーンは多少意味合いは異なりますが、自社が直接的に排出しているGHGよりも広い範囲のGHG排出を削減するということが重要かと思います。そして、2021年3月には「製造パートナー110社以上が、アップル製品の製造に用いる電力を100%再生可能エネルギーに振り替えていく」と発表しました。世界で時価総額が最も大きいアップルがサプライチェーン全体のカーボンニュートラルに向けて動き出したことは、今後多くの企業に影響を与えるでしょう。

上記の図を参考に、金融機関について考えてみると、金融機関は自社で何かを製造するようなビジネスモデルではないため、バリューチェーン全体を見てもGHGを排出している領域は少ないように思えます。

しかし、スコープ3の「投資」という領域に注目してください。

金融機関はお金を投じる先を決めることができる=企業に対して大きなパワーを持っています。金融機関がGHGを大量に排出する企業に投資や融資を続けていては「2050年までのGHG排出量実質ゼロ」は実現できず、2100年までに産業革命前と比べて気温が2.1°C~3.9°C上昇する可能性がかなり高くなります。

そのため、金融機関に限ると、スコープ3のカテゴリー15である投資・融資によるGHGの排出を算定・報告することが重要なのです。

金融機関が「GHG算定・報告の世界基準」を順守する意義

金融機関にとって「GHG算定・報告の世界基準」を順守することは、短期的に負担になりますが、意義は以下となります。

1.ステークホルダーに対する透明性を確保できる

2.気候変動関連のリスクを管理できる

3.気候変動に配慮した金融商品の開発ができる

4.金融の流れをパリ協定に合わせることができ、社会的責任を果たせる

1.ステークホルダーに対する透明性を確保できる

リーマンショック以降、金融機関のステークホルダーは「自分たちの資金がどのように投資・融資されているか」についてより透明性を求めるようになっています。

例えば、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、2020年に「気候変動リスクに対する透明性の向上が各金融機関に求められている」と発言しています。

GHG算定・報告の世界基準は、既に158の金融機関が参加しており、算定・報告の基準が整備されつつありますので、ステークホルダーに対する透明性を高めるために大いに活用できます。

2.気候変動関連のリスクを管理できる

金融機関は「GHG算定・報告の世界基準」を順守することで、自社の投資や融資がどのくらい炭素集約型の産業やプロジェクトに偏っているか把握することができます。

そのような投資や融資は、今後「反化石燃料の政策・規制」が導入されることでパフォーマンスが悪化する可能性があります。

また、今後気候変動に関するリスクを開示していない金融機関は、同業他社が開示を進めている場合に風評リスクに直面する可能性があります。

つまり「GHG算定・報告の世界基準」は、金融機関の本業のリスク管理に役立つと言えます。

3.気候変動に配慮した金融商品の開発ができる

「GHG算定・報告の世界基準」に従って、自社の投資先・融資先のGHG排出量を可視化していくことで、気候変動に配慮した金融商品を開発することができるようになります。

例えば、貸借対照表上のグリーン部分への資金提供、損益計算書上の環境に配慮したプロジェクトへの資金提供、などです。

4.金融の流れをパリ協定に合わせることができ、社会的責任を果たせる

「GHG算定・報告の世界基準」は、他の気候変動イニシアチブが提供するフレームワークと整合しています。例えば、科学的根拠に基づく排出削減目標を設定するSBTiのフレームワークとは以下のように連動しています。

PCAFとSBTの資産クラスの整合性

The Global GHG ACCOUNTING & REPORTING Standardを参考に作成

上の図は「GHG算定・報告の世界基準」とSBTの連動を表しています。「GHG算定・報告の世界基準」で登場する資産クラス「上場株式および社債」は、SBTだと「企業金融商品」という資産クラスに整合します。

GHG算定・報告の世界基準(PCAF)とSBTの使い方

The Global GHG ACCOUNTING & REPORTING Standardを参考に作成

上の図は、GHG算定・報告の世界基準(PCAF)とSBTをどのような順序で使えば良いかを表しています。

1.投資・融資ごとのGHG排出量の算定

投資先、融資先ごとにスコープ1、2のGHG排出量を算定します。業種によってはスコープ3の算定が求められる場合がありますが、通常はスコープ1、2となります。

2.金融機関に帰属するGHG排出量の算出

GHG算定・報告の世界基準で決められた計算式で、1のうち金融機関に帰属するGHG排出量を産出します。

3.排出原単位の算出

当該金融機関の活動1単位につき、どの程度の投資・融資によるGHGを排出するか(排出原単位)を産出します。

4.脱炭素化への道筋の選択とGHG排出量ベースのSBTの設定

3で算出した「排出原単位」 × 「次期の活動総量の予測」といった計算で、GHG排出量ベースの目標設定(SBTのベースライン設定)が可能となります。

このように、他のフレームワークは、シナリオ分析や目標設定に重点を置いている一方、「GHG算定・報告の世界基準」は投資・融資先のGHG排出量の算定に重点を置いており、すみ分けができています。

そのため、金融の流れをパリ協定に合わせたい金融機関は、他の気候変動イニシアチブが提供するフレームワークを活用しながら「GHG算定・報告の世界基準」を活用できます。

金融機関によるGHG排出量の算定方法

1.各投資・融資の資産クラスを定義する

まず各投資・融資の資産クラスを定義します。資産クラスの定義の仕方は「GHG算定・報告の世界基準」で決められており、以下のようになります。

「GHG算定・報告の世界基準」における資産クラスの決定方法

The Global GHG ACCOUNTING & REPORTING Standardを参考に作成

例えば、社債は資金使途が不明なものは「上場株・社債」という資産クラスに該当しますが、資金使途が明確なものは「プロジェクトファイナンス」に該当します。具体的な各資産クラスの定義を文章にすると以下です。

「GHG算定・報告の世界基準」の資産クラスの定義

The Global GHG ACCOUNTING & REPORTING Standardを参考に作成

これらを参考に、各投資・融資がどの資産クラスに該当するかをラベリングしましょう。

2.各投資・融資によるスコープ1、2のGHG排出量を算定する

資産クラスの定義ができたら、次は各投資・融資先のGHG排出量を算定します。ほとんどのケースではスコープ1、スコープ2までの算定で良いとされていますが、2021年以降は石油、ガス、鉱業のセクターへの投資・融資はスコープ3も算定・報告すべきとされています。

スコープ3の算定・報告に関する今後の予定は以下です。GHG排出へのインパクトが大きいセクターから順番に、スコープ3のGHG排出量の算定・報告が必要になるようです。

スコープ3の算定・報告に関するロードマップ

The Global GHG ACCOUNTING & REPORTING Standardを参考に作成

投資・融資先のGHG排出量を算定する選択肢は3つあります。

選択肢1:報告に基づく排出量の算定

選択肢2:物理的活動に基づく排出量の算定

選択肢3:経済活動に基づく排出量の算定

選択肢1:報告に基づく排出量の算定

金融機関が投資・融資先のサステナビリティレポートなどからGHG排出量を収集し算定します。もしくは、金融機関がCDP、MSCI、Sustainalytics、S&P/Trucost、ISS ESGなどの第三者データプロバイダーの情報からGHG排出量を収集し算定します。

選択肢2:物理活動に基づく排出量の算定

投資・融資先から収集した主要な物理的活動のデータ(消費した天然ガスのメガワット時や生産した鉄鋼の重量など)に基づいて、金融機関がGHG排出量を推定します。GHG排出量の推定は、信頼できる独立した機関によって発行または承認された物理的活動ごとに定義された排出係数を用いる必要があります。

選択肢3:経済活動に基づく排出量の算定

投資・融資先から収集した経済活動のデータ(収益、資産など)に基づいて、金融機関がGHG排出量を推定します。GHG排出量の推計は、公式な統計データ、またはEEIO(*)を用いる必要があります。

(*)経済活動ごとに定義された地域または部門固有のGHGの平均排出係数を定義したモデル。各セクターの経済的な依存度を算定するIOモデルを環境領域に拡張したもの。

「GHG算定・報告の世界基準」では、データの質の観点から選択肢1を最も望ましい算定方法としており、次に選択肢2、最後に選択肢3としています。

3.金融機関に帰属するGHG排出量を算定する

「2.各投資・融資によるスコープ1、2のGHG排出量を算定する」の後は、各投資・融資によるGHG排出量のうち金融機関に帰属するGHG排出量を算定します。これは各投資・融資がどの資産クラスに分類されるか?で算定の計算式が異なりますので、「上場株式および社債」を例に測のイメージをつかんでいただければと思います。

金融機関に帰属するGHG排出量の計算方法

The Global GHG ACCOUNTING & REPORTING Standardを参考に作成

金融機関に帰属するGHG排出量は、帰属係数 × 投資・融資先のGHG排出量の一部を全て足し合わせて算出します。帰属係数は、投資・融資先の「株式や債券」の残高を投資・融資先の価値で割り、算出します。

なお、投資・融資先の価値は、上場企業の場合はEVICによって算出し、非上場企業の場合は株主資本と負債の合計額で算出します。

金融機関に帰属するGHG排出量の算出方法は、資産クラスごとに多少異なりますが、大枠は上記のイメージとなります。

金融機関によるGHG排出量の報告方法

「GHG算定・報告の世界基準」を使用すると約束した金融機関は、以下のような報告要件を満たさなければなりません。

報告の頻度

少なくとも年に1回、財務会計のサイクルに従ってGHG排出量を開示しなければなりません。

基準年のGHG排出量の再計算方針の設定

金融機関は「GHGプロトコルのバリューチェーン(スコープ3)算定・報告基準」に従って、基準年のGHG排出量の再計算方針を確立しなければなりません。これは、どのような状況下で基準年のGHG排出量の再計算が必要かを定義することを目的とする。

報告の形式

金融機関は、(セミ)アニュアル・レポート、ウェブサイトの記事、その他金融機関が適切と考える報告書で開示すること。

報告の対象

金融機関は、先の「1.各投資・融資の資産クラスを定義する」というパラグラフで示した以下の資産クラスまたはセクターについてすべての絶対的なGHG排出量を開示しなければなりません。

・上場株・社債

・事業融資・非上場株

・プロジェクトファイナンス

・商業用不動産

・住宅ローン

・自動車用ローン


以下の場合、報告から除外できますが、その場合は正当性を説明しなければなりません。

・金融機関が必要なデータを入手できない場合

・その活動が、投資・融資によるGHGの総排出量に対して影響を与えない小さな規模の場合

・その活動への投資・融資によるGHG排出量を定量化するグローバルな方法論がない場合

報告すべきGHGの種類と単位

・金融機関が報告すべきGHGの種類は、二酸化炭素(CO₂)、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六フッ化硫黄(SF₆)、三フッ化窒素(NF₃)とする。

・これらの7つのガスは、IPCCが発表した地球温暖化係数を用いて、二酸化炭素換算値に変換する。

・投資・融資によるGHG排出量は、メートル法による二酸化炭素換算値(tCO₂ e)またはその他の適切なメートル法による換算値(ktCO₂ e、MtCO₂ e)で表す。

・バリューチェーンで発生する生物期限のCO₂は、スコープには含めず、別途公開レポートに含めて報告する。

データの品質

・金融機関は、入手可能な最新またはその他適切なデータを使用しなければならない。ただし、PCAFは財務報告と各種GHG排出に関するデータの入手のタイミングにはタイムラグがあることを認識している。この場合、使用するデータが財務報告の年度と異なるものであっても構わない。

・金融機関は、GHG排出量に関するデータの品質スコアを公表するか、公表できないとしたらその理由を説明すべきである。

・金融機関がスコープ3のGHG排出量を報告する場合、スコープ1およびスコープ2とは別にデータの品質スコアを報告しなければなりません。

以上が「GHG算定・報告の世界基準」についての全体像となります。PCAFに参加を検討する際は、ぜひ参考にしてみてください。

STAYMOVEメルマガ登録
定期的に新着記事等をお送りいたします。
ありがとうございます。
登録が完了しました。
登録に失敗しました。少し経ってからお試しください。
おすすめの記事