【温室効果ガスの算定・報告】全企業がまず抑えるべき「GHGプロトコル企業算定・報告基準」とは
【温室効果ガスの算定・報告】全企業がまず抑えるべき「GHGプロトコル企業算定・報告基準」とは
2021-10-11
加藤 章太朗
GHGプロトコル
GHG算定・報告
企業基準
炭素会計
カーボンアカウンティング

環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視、選別して行うESG投資の規模が約3,300兆円になっています。企業がステークホルダーから温室効果ガス(GHG)の排出量など「地球環境に対する取り組み」を公開することを求められる時代に、企業はどのようにGHGの排出量を算定・報告すれば良いでしょうか。


今回は様々なGHG算定・報告のフレームワークの中でも特に信頼性の高い、温室効果ガス(GHG)プロトコルイニシアチブが作成している「GHGプロトコル企業算定・報告基準」(以下、企業基準)について解説します。ESG格付け機関から低いESGレーティングをつけられないためにも、国際的なGHGの算定・報告基準を理解し、少しずつ情報開示を始めましょう。

<目次>

・GHGプロトコルシリーズとは

・「企業基準」の全体像

・ステップ1:境界の設定(組織境界と事業境界)

・ステップ2 基準年と基準年のGHG排出量の設定

・ステップ3:GHG排出減の特定

・ステップ4:計算方法の選択

・ステップ5:活動データの収集と排出係数の選択

・ステップ6:計算ツールを利用しGHG排出量を計算

・ステップ7:インベントリの品質管理


<関連記事>

【温室効果ガスの算定・報告】世界158の金融機関が遵守。金融機関向けGHG算定・報告の世界基準とは

GHGプロトコルシリーズとは

今回解説する「企業基準」は、GHGプロトコルシリーズの1つです。GHGプロトコルシリーズとは、GHGの算定と報告をするための国際的な基準で、温室効果ガスプロトコル・イニシアティブによって整備されています。以下のようにGHGプロトコルには「企業基準」以外にもいくつかの基準があります。

GHGプロトコルシリーズの一部
Corporate Value Chain(Scope 3) Accountingand Reporting Standardを参考に作成

企業基準 : 自社の活動に関連して発生するGHG排出量を算定・報告する基準です。

スコープ3基準 : バリューチェーンの上流や下流といった自社の活動外で発生するGHG排出量を算定・報告する基準です。

製品基準 : 製品ごとにGHG排出量を算定・報告するための基準です。

なお、これらはGHGプロトコルシリーズの一部です。


GHGプロトコルシリーズを整備している、温室効果ガスプロトコル・イニシアチブは、アメリカの環境NGOである世界資源研究所(WRI)と、ジュネーブに本部を置く170の国際企業で構成される「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」が招集した、企業、非政府組織(NGO)、政府などから成るマルチステークホルダー・パートナーシップです。1998年に設立されたこのイニシアティブは、企業向けに温室効果ガス(GHG)の算定・報告基準を策定し、普及を促進しています。

GHGプロトコルシリーズの中でも、「企業基準」は基礎となる基準で、GHGの算定・報告を始める会社がまずチェックすべきものだと言えます。

「企業基準」の全体像

それでは「企業基準」の全体像から見ていきましょう。

「企業基準」の全体像

Corporate Value Chain(Scope 3) Accountingand Reporting Standardを参考に作成

「企業基準」は全部で7つのステップに分解できます。各ステップの詳しい説明は、後で行いますが、全体としてはざっくり以下の流れとなります。

ステップ1:境界の設定(組織境界と事業境界)

自社がGHG排出量を算定・報告すべき組織の境界(範囲)を設定します。例えば、複数の会社に出資している大企業だと「どの出資先までGHGを算定・報告すべきか」という境界を決める必要があります。自社がGHG排出量の算定・報告をすべき組織の境界が決まったら、その中を更に細分化して事業境界という境界を設定します。詳しくは後ほど説明しますので、今は「GHG排出量を算定・報告すべき範囲を決めるんだな」といった理解で問題ありません。

ステップ2:基準年と基準年のGHG排出量の設定

企業は、GHG排出量の検証が可能な基準年を選択し、その基準年を選択した理由を明示しなければなりません。基準年と基準年のGHG排出量を設定することで、時系列でGHG排出量の変化を追うことが可能となります。多くの企業は単一年を基準年としていますが、連続する数年間の年間排出量の平均値を選択することも可能です。

ステップ3:GHG排出源の特定

ステップ1で設定した境界(範囲)における、GHGの排出源を特定します。排出源の例は「企業基準」で提示されているので、参考にしながら自社の排出源を可視化していきます。

ステップ4:計算方法の選択

IPCCのガイドラインでは、直接GHG排出量を測定する方法から、排出係数(*)を利用してGHG排出量を計算する方法まで、幅広く計算方法を用意してあります。企業はそのガイドラインからGHG排出量の計算方法を選択します。

なお、直接GHG排出量を測定するケースはあまりなく、多くの場合、排出係数を活用します。経済統計などで用いられる「活動量」(ガソリン、電気、ガスなどの使用量)に、「排出係数」をかけてGHGの排出量を求めることができます。

ステップ5:活動データの収集と排出係数の選択

GHG排出量を算定するための活動データ(燃料の購入量、電力消費量等)を収集します。また、それらのデータに適用する排出係数(供給者ごとの排出係数、地域ごとの排出係数)を選択します。

ステップ6:計算ツールを利用しGHG排出量を計算

STEP5で収集した活動データと選択した排出係数を、GHGプロトコル・イニシアチブが公表している計算ツールに適用し、GHG排出量を計算します。

ステップ7:インベントリの品質管理

ステークホルダーの要求や将来の規制への対策として、GHG排出量インベントリの品質を管理します。GHG排出量インベントリとは、ステップ6までで作成されるアウトプットのことだとご理解ください。


それでは、1つずつステップを細かく見ていきましょう。

ステップ1:境界の設定(組織境界と事業境界)

組織境界の設定

複数の会社に出資している大企業などは特に、どこまでのGHG排出量を自社の排出量として算定・報告すべきかを決めなければなりません。例えば、あるグローバル企業A社が以下の会社に出資しているとします。

<A社の出資状況>

B社:100%出資

C社:100%出資

D社:30%出資

この場合、B社、C社、D社が排出するGHGをA社はどこまで報告すべきでしょうか。答えは、「企業基準のルールに従い、組織境界を設定する」ということとなります。そして、組織境界を設定するためのルールは、持分アプローチ、財務支配アプローチ、運営支配アプローチ、の3つから選べます。

組織境界を設定する3つのアプローチ

持分アプローチ

持分アプローチを選択した場合は、株式の持分比率に応じてGHG排出量を計上します。通常、事業における経済的なリスクと報酬の割合は、その事業に対する会社の所有権の割合と一致してます。そして、株式の持分比率は通常、所有権の割合と同じになります。もしそうでない場合には、会社と事業との関係の経済的実質が常に法的所有形態に優先し、株式の持分比率が経済的利益の割合を反映するようにします。経済的実質が法的形式に優先するという原則は、国際財務報告基準と一致しています。

支配アプローチ

支配アプローチでは、企業が支配している事業からのGHG排出量を100%計上します。支配アプローチでは、自社が支配している事業からのGHG排出量を100%計上し、自社が株式を保有しているが支配していない事業からのGHG排出量は計上しません。支配の定義には、財務上のものと運営上のものがあります。

財務支配アプローチ

経済的利益を得ることを目的として、会社がある事業の財務および経営方針を支持する能力を有している場合、その事業に対する財務支配力を有していると言えます。通常、会社が事業から得られる利益の大半を享受する権利を有している場合に財務支配力は存在しますが、その権利がどのように譲渡されたかは問われません。「企業基準」では、会社と事業との関係の経済的実質が法的所有権の有無に優先します。つまり、会社が事業の50%未満の持分しか持っていなくても、事業に対する財務支配力を持つことができます。財務支配アプローチを選択した場合、財務支配力を持っている事業のGHG排出量は100%計上します。

運営支配アプローチ

会社またはその子会社(財務会計上の分類の定義については表1を参照)が、ある事業に経営方針を導入・実施するための全権限を有している場合、その事業に対する運営支配力を有していると言えます。運営支配アプローチを選択した場合、企業は、自社または子会社の1社が運営支配している事業からの排出量を100%計上します。

なお、事業に関するすべての決定権を持っていなかったとしても、運営支配力を持っていることはあります。例えば、自社が大規模な資本投資を行う際、共同で財務支配を行っているすべてのパートナーの承認が場合があり、全ての決定権を持っているとは言えません。ただし、この場合でも、事業に対し経営方針を導入・実施する権限を有していれば、運営支配力を有していると言えます。逆に、ある会社が事業に対して共同で財務支配を行っていて、運営支配力を持っていないこともあります。

このような場合、会社は、契約上の取り決めを見て、パートナーのいずれかが事業に運営方針を導入・実施する権限を持っているかを判断し、GHG排出量の算定・報告の責任があるかどうかを判断する必要があります。

上記、持分アプローチ、財務支配アプローチ、運営支配アプローチの3つの中から、自社に適したアプローチを選びます。なお、組織内で統一したアプローチを選択することで、一貫したGHG排出量のデータを得ることができます。そのため、まずは親会社の経営陣がどのアプローチを選択するか決める必要があります。

アプローチが決まれば、そのアプローチに合わせて、GHG排出量の算定・報告の範囲、つまり組織境界が決まります。

事業境界の設定

組織境界を設定しGHG排出量を算定・報告の大枠の範囲が決まったら、次はより細かい範囲を決定します。それが事業境界の設定です。

組織境界と事業境界

A Corporate Accounting and Reporting Standardを参考に作成

事業に関連したGHGの排出を特定し、それらのGHG排出を分類分けしていくことで、事業境界を設定できます。GHG排出の分類分けはスコープという概念によって行われます。

スコープ1:直接的なGHG排出

自社が所有または管理している排出源からのGHG排出をスコープ1として報告します。直接的なGHG排出は、主に企業が行う以下のような活動の結果として発生します。

固定燃焼:

自社が所有または管理しているボイラー、炉、バーナー、タービン、ヒーター、焼却炉、エンジン、フレアなどの固定燃焼機器における燃料の燃焼。

移動燃焼:

自社が所有または管理する移動式燃焼源(自動車、トラック、バス、列車、飛行機、ボート、船舶、など)の燃料の燃焼。

プロセス排出:

自社が所有または管理している設備による物理的または化学的プロセス。例えば、セメント製造における脱炭酸工程からのCO₂、石油化学処理における接触分解からのCO₂、アルミニウム製錬からのPFC排出など。

漏洩排出:

自社が所有または管理している設備による意図的または非意図的な放出。例えば、ジョイント、シール、パッキン、ガスケットからの機器の漏れ、炭鉱やベントからのメタン排出、冷蔵・空調機器使用時のハイドロフルオロカーボン(HFC)排出、ガス輸送時のメタン漏れなど。

スコープ2:電力の間接的なGHG排出

自社が所有または管理する設備や業務で消費される購入電力の燃焼に伴うGHG排出をスコープ2として報告します。簡単に言うと、例えば購入した電力は発電所で作られていますが、その発電所での燃焼で発生したGHG排出を算定・報告するということになります。多くの企業にとって、購入電力は最大のGHG排出源のひとつであり、これらの排出を削減する最も大きな機会でもあります。スコープ2の排出量を計上するメリットは以下です。

・電力コストやGHG排出量の変化に伴うリスクと機会を評価することができる。

・他のGHGプログラムで必要となる可能性が高く、排出量データを転用できる。

・スコープ2の排出量を把握したうえで、エネルギー効率の高い技術や省エネに投資することで、電力の使用量を削減することができる。

ここまでがスコープ1、スコープ2の説明となりますが、二重形状を避けるためにも、企業は、スコープ1とスコープ2を別々に算定し、報告しなければなりません。

なお、これらに加え、バリューチェーン全体のGHG排出量を算定・報告するためのスコープとして、スコープ3があります。スコープ3はスコープ2以外の間接的なGHG排出のことであり、「企業基準」では任意のスコープとなっています。

スコープ1、スコープ2、スコープ3の全体像

A Corporate Accounting and Reporting Standardを参考に作成

スコープ3:その他の間接的なGHG排出量

スコープ3は、スコープ2以外のすべての間接的な排出を扱うことができる、任意の報告カテゴリーです。スコープ3のGHGは、企業の活動の結果として発生するものですが、企業が所有または管理していない排出源から発生します。以下、スコープ3に含まれるGHG排出の例を挙げます。

●購入した材料および燃料の採取および生産により発生するGHG

●輸送に関する活動により発生するGHG

・購入した材料または物品の輸送により発生するGHG

・購入した燃料の輸送から発生するGHG

・従業員の出張に伴うGHG

・従業員の通勤・通学に伴うGHG

・販売した製品の輸送により発生するGHG

・廃棄物の輸送により発生するGHG

●スコープ2に含まれない電気関連の活動により発生するGHG

・発電に使用する燃料の採取、生産、輸送により発生するGHG

・最終消費者に販売される電力の購入により発生するGHG

・送電・配電システムで消費される(失われる)電気の生成により発生するGHG

●リース資産、フランチャイズ、アウトソース活動により発生するGHG

●販売した製品およびサービスの使用により発生するGHG

●廃棄物処理により発生するGHG

・事業活動で発生する廃棄物の処理により発生するGHG

・購入した材料および燃料の生産に伴う廃棄物の処理により発生するGHG

・販売した製品の耐用年数終了時の廃棄により発生するGHG

どの連結アプローチ(持分アプローチ、財務支配アプローチ、運営支配アプローチ)を選択したかによって、GHG排出がスコープ3に入るかスコープ1に入るかが変わります。また、上記のスコープ3の例でも、場合によってはスコープ1になる場合があります。例えば、製品の輸送を自社で所有または管理している車両で行う場合は「自社で所有または管理している排出源からのGHG」となるので、スコープ1になります。自社の連結アプローチや所有・管理の状況を鑑みながら、排出を正しいスコープに割り振りましょう。

なお、スコープ3の算定・報告は、初めからすべてを対象にせず、主要な排出源に絞ることが重要です。

以上がスコープ1、スコープ2、スコープ3の説明となります。

このステップでは、具体的な排出源を特定するというよりは、まずはどの範囲のGHG排出量を算定・報告するかを決定し、その範囲を事業境界としましょう。

なお、事業境界の設定は以下の順序で行うことを推奨します。いきなり完璧なものを目指すのではなく、重要な部分から少しずつ細かくし、範囲を広げることが望ましいです。

1.スコープ1、スコープ2について、「企業基準」を参考にしながら算定・報告を行う。

2. スコープ3の中でも以下の条件に当てはまる領域に焦点を当て、GHGの算定・報告を行う。

・GHG排出量が大きいと予想される領域

・お客様、サプライヤー、投資家、世の中、など主要ステークホルダーから重要とされている領域

なお、いずれにしても正確なデータを取得できることが前提となります。

3.スコープ1、2を細分化する。

ビジネスユニット、施設、国、排出源の種類(定常燃焼、プロセス、漏洩など)、活動の種類(電気の生産、電気の消費、発電または購入した電気をエンドユーザーに販売するなど)ごとにデータを細分化します。

4.スコープ3の範囲を広げる。

サプライヤーなどを巻き込み、より広範囲なスコープ3の算定・報告を行います。

ステップ2:基準年と基準年のGHG排出量の設定

「GHGの算定・報告をどこまでするか?」という境界の設定が終わったら、次は「どの年のGHG排出量を基準とし、GHG排出に関するパフォーマンスを測定するか?」を決めなければなりません。これが基準年の設定です。

基準年を設定すると、時系列でGHG排出量の変化を追うことが可能となります。多くの企業は単一年を基準年としていますが、連続する数年間の年間排出量の平均値を選択することも可能です。例えば「1998年~2000年のGHG排出量の平均値を基準年のGHG排出量とする」といった形式です。なお「基準年は検証可能なGHGデータを入手できる年」ということは大前提となります。

基準年のGHG排出量の再計算

一度設定した基準年のGHG排出量を再計算するケースがあります。しかし、企業が自由に基準年のGHG排出量を再計算することは避けるべきですので、再計算のトリガーとなる「有意閾値」を設定しなければなりません。有意閾値とは、基準年のGHG排出量を再計算する条件を定性的・定量的に表した基準のことです。

例えば、以下のようなケースで基準年のGHG排出量は再計算を行います。

1.基準年の排出量に大きな影響を与える報告組織の構造的変化があった場合

2.計算方法の変更、排出係数や活動データの精度の向上により、基準年の排出量データに重大な影響を与える場合

3.重大な誤りの発見、または累積した誤りの数がまとまって重大であると発覚した場合

構造的変化とは、排出量を生み出す活動や事業の所有権や支配権が、ある企業から別の企業に移ることを指します。1つの構造的変化では基準年の排出量に大きな影響を与えないかもしれませんが、いくつかの小さな構造的変化の累積的な影響により、重大な影響を与える可能性があります。構造的変化には、合併、買収、事業売却、排出源となる活動のアウトソーシングとインソーシング、などがあります。

例えば「累積した誤りが基準年のGHG排出量の10%を超えた場合は、再計算を実施する」といった有意閾値の設定が考えられます。

以下は、基準年のGHG排出量の再計算の例となります。

基準年の再計算の例①

A Corporate Accounting and Reporting Standardを参考に作成

基準年の2年後に事業Cを買収したケースです。この例では、買収による構造的変化を受け、事業Cの過去のGHG排出量データを取り、基準年のGHG排出量を再計算しています。

基準年の再計算の例②

A Corporate Accounting and Reporting Standardを参考に作成

逆に、上図は基準年の2年後に事業Cを売却したケースです。事業売却による構造的変化を受け、基準年のGHG排出量を再計算しています。

ステップ3:GHG排出源の特定

次は、具体的なGHG排出源を特定していきます。ステップ1で設定した境界内の具体的な排出源を特定していきます。通常、GHGは以下の排出源区分から発生します。

固定燃焼:

ボイラー、炉、バーナー、タービン、ヒーター、焼却炉、エンジン、フレアなどの固定燃焼機器における燃料の燃焼。

移動燃焼:

移動式燃焼源(自動車、トラック、バス、列車、飛行機、ボート、船舶、など)の燃料の燃焼。

プロセス排出:

物理的または化学的プロセス。例えば、セメント製造における脱炭酸工程からのCO₂、石油化学処理における接触分解からのCO₂、アルミニウム製錬からのPFC排出など。

漏洩排出:

意図的または非意図的な放出。例えば、ジョイント、シール、パッキン、ガスケットからの機器の漏れ、炭鉱やベントからのメタン排出、冷蔵・空調機器使用時のハイドロフルオロカーボン(HFC)排出、ガス輸送時のメタン漏れなど。

このステップを細かく分解すると、以下の流れとなります。

1.バリューチェーンの可視化

組織境界に従ってバリューチェーンを可視化し、排出源をできる限り羅列しましょう。最初から完璧なものを創る必要はありません。

2.スコープ1排出の特定

排出源の中から、自社が所有または管理する設備によるGHG排出をチェックし、スコープ1とします。なお、プロセス排出がスコープ1に該当する産業は、石油・ガス、アルミニウム、セメントなどの特定の産業分野となります。また、オフィス系の企業では、車両、燃焼装置、冷凍空調設備を所有または管理している場合を除き、GHGの直接排出はないと考えられます。

3.スコープ2排出の特定

購入した電気、熱、または蒸気の消費による間接的な排出源を特定し、スコープ2とします。ほとんどすべての企業は、プロセスやサービスで使用するために電力を購入することで、間接的な排出を生み出しています。

4.スコープ3排出の特定

スコープ3の算定・報告は任意なので、GHGの算定・報告をし始めた段階ではこのステップは必要ありません。GHGの算定・報告の運用に慣れてきたら、スコープ3の排出源を特定しましょう。スコープ3のGHG排出を特定することで、企業の直接的な事業の上流または下流に存在するGHG排出削減のための機会を幅広く把握することができます。

ステップ4:計算方法の選択

GHG排出量の計算方法は様々で、IPCCのガイドラインで言及されています。例えば、GHGの濃度や量を直接モニタリングし、直接測定する方法もあります。また、排出係数を活用する方法もあります。このステップでは、それらの計算方法を選択する必要があります。

なお、直接GHGを測定する方法は一般的ではなく、多くの場合排出係数を用いた計算方法が選択されます。経済統計などで用いられる「活動量」(ガソリン、電気、ガスなどの使用量)に、「排出係数」をかけてGHGの排出量を求めることができます。

ステップ5:活動データの収集と排出係数の選択

GHG排出量を算定するための活動データを収集します。また、それらのデータに適用する排出係数を選択します。

スコープ1のGHG排出量の計算で使う活動データと排出係数

利用する活動データは、商業用燃料(天然ガスや暖房用オイルなど)の購入量などが挙げられます。利用する排出係数は、公表されている排出係数を用います。

スコープ2のGHG排出量の計算で使う活動データと排出係数

利用する活動データは、主に電力消費量です。利用する排出係数は、供給者ごとの排出係数、地域ごとの排出係数、またはその他の公表された排出係数です。

スコープ3のGHG排出量の計算で使う活動データと排出係数

利用する活動データは、燃料使用量や走行距離などが挙げられます。利用する排出係数は、公表された排出係数または第三者による排出係数から算出されます。


なお、排出係数は、排出源や工場に特化したものが入手可能であれば、一般的で汎用的な排出係数よりも望ましいと考えられます。

ステップ6:計算ツールを利用しGHG排出量を計算

STEP5で収集した活動データと選択した排出係数を用いて、GHG排出量を計算します。利用する計算ツールは任意ですが、GHGプロトコル・イニシアチブが公表している計算ツールに適用することが望ましいと言えます。

計算ツールは「GREENHOUSE GAS PROTOCOL Calculation Tools」で公開されています。

ツールには以下のような種類のツールがあります。

・セクター横断ツール

様々なセクターに適用可能なツールです。

・国別ツール

特定の国におけるGHG排出量を算定するためのツールです。

・特定のセクター向けツール

特定の産業向けのツールです。

・国や都市向けのツール

国や都市がGHG排出量を算定する際に利用するツールです。

具体的なツールの例は以下です。

固定燃焼に関する計算ツール

こちらの計算ツールは、クロスセクターツールとなります。以下計算ツールの特徴です。

・固定型機器(ボイラー、タービン、ヒーター、焼却炉等)の燃料燃焼による直接・間接CO₂排出量を算出可能。

・コージェネレーション施設からのGHG排出量を配分するための2つのオプションを提供。

・デフォルトの燃料と全国平均電力の排出係数を提供。

移動燃焼に関する計算ツール

こちらの計算ツールは、クロスセクターツールとなります。以下計算ツールの特徴です。

・移動体(自動車、トラック、バス等)における燃料の燃焼からの直接および間接的なCO₂排出量を算出可能。

・道路輸送、航空輸送、水輸送、鉄道輸送の計算と排出係数を提供。

エアコン・冷凍機用のHFCに関する計算ツール

こちらの計算ツールは、クロスセクターツールとなります。以下計算ツールの特徴です。

・業務用の冷凍・空調機器の製造、使用、廃棄に伴うHFCの直接排出量を算出可能。

・売上高ベースのアプローチ、ライフサイクルステージベースのアプローチ、排出係数ベースのアプローチの3つの計算方法を提供。

これ以外にも様々なツールが用意されているので、最適なツールを選択し、GHG排出量を計算しましょう。

企業レベルへでのGHG排出量統合の考え方

STEP3~6で、GHG排出量を計算し、最終的には企業レベルでデータを統合する必要があります。GHG排出量のデータを企業レベルで統合する方法は、中央集権型と分散型の2つのアプローチがあります。

GHG排出量の企業レベルでの統合方法

A Corporate Accounting and Reporting Standardを参考に作成

中央集権型のアプローチは、各事業部や子会社には、活動データの提出だけ求めます。その場合、STEP3~6を全社レベルで計算し、企業レベルのGHG排出量を算定します。

一方、分散型のアプローチは、各事業部や各子会社などに、活動データと排出係数を使ってGHG排出量を計算してもらい、それを収集し、全社で統合します。STEP3~STEP6の多くを各事業部や各子会社が行うことになります。

初めから分散型のアプローチは難易度が高いため、初めは中央集権型を選択する方が無難化と思います。

ステップ7:インベントリの品質管理

最後のステップは品質管理です。ステークホルダーからの要求に応えるためにも、将来の規制に対応するためにも、STEP6までで作成されるアウトプット=インベントリの品質を管理する必要があります。将来、ステークホルダーからの情報開示を要求された際、問題なく情報を出せるようにインベントリの品質管理を行いましょう。

以下、「企業基準」に記載されているインベントリの品質管理フレームワークです。

GHGインベントリ品質管理システム

A Corporate Accounting and Reporting Standardを参考に作成

1.インベントリ品質管理チームを組成する

インベントリの品質を継続的に改善するチームを組成しましょう。このチームは、関連するビジネスユニット、施設、政府機関プログラム、研究機関、検証者、コンサルティング会社などの外部組織との間のやり取りをすることになります。

2.品質管理計画を策定する

インベントリの品質管理システムを実施するための手順を記述した品質管理計画を策定しましょう。初めから完璧な手順を創るのではなく、特定の手順のさらなる厳格化や適用範囲の拡大は、複数年にわたって段階的に実施することができます。品質管理計画には、データ収集から最終報告まですべてのプロセスの手順を含めるべきです。

3.一般的な品質チェックを行う

データの取り扱い、文書化、排出量計算活動(正しい単位変換が使用されているかどうかなど)について、適切に厳密な品質チェックを行います。

4.発生源固有の品質チェックを行う、

特定のGHG発生源カテゴリーに対し、品質チェックを行います。これは、特定のGHG発生源カテゴリーに対する、境界線の適切な適用、再計算手順、会計および報告の原則の遵守、使用されたデータ入力の質(例えば、電気代と検針票のどちらが消費データの最良の情報源か)、およびデータの不確実性の主な原因の定性的な説明、などの厳密なチェックが含まれます。

5.最終的なインベントリの推定値と報告書をレビューする

工学的、科学的、およびその他の技術的側面に焦点を当てた技術レビューを行います。また、インベントリに対する企業の公式な承認とサポートを確保することに焦点を当てた、経営者によるレビューを行います。

6.正式なフィードバックループを制度化する

5のレビューの結果を、品質管理システムの他の結果と同様に、品質管理チームにフィードバックします。このフィードバックに基づき、エラーを修正し、改善を行います。

7.報告、文書化、保存の手順を確立する

内部目的のためにどのような情報を文書化するか、その情報をどのようにアーカイブするか、外部の利害関係者のためにどのように情報を報告するかを明記した記録保持手順を、定義しましょう。

以上、長くなりましたが「企業基準」(GHGプロトコル企業算定・報告基準)の全体像の解説記事となります。

より詳しく聞きたい場合は、以下の個別相談会でより細かく相談に乗ることが可能です。ぜひ、お申し込みください。

また、定期的にGHGプロトコルシリーズの解説記事を出していきますので、もしよろしければメルマガにご登録ください!

STAYMOVEメルマガ登録
定期的に新着記事等をお送りいたします。
ありがとうございます。
登録が完了しました。
登録に失敗しました。少し経ってからお試しください。
おすすめの記事